呉服屋さんの店頭やネットショップで、円筒状にくるくると巻かれた布を⾒かけたことはありませんか?
「反物(たんもの)」と呼ばれるその布は、これから着物になる布地の状態です。まさに、着物の原点と言えるでしょう。
仕立て上がった既製品の着物を購入することが多い方でも、反物の基本的な知識を理解しておくと着物選びが一層楽しくなります。この記事では、反物の基本的な意味やサイズ、素材の種類といった基礎知識から、着物へのお仕立てについてまで解説します。
- 反物(たんもの)の基礎知識
- 【反物は衣服の生地】反物の定義と着物との違い
- 名前の由来と数え方、種類
- 自分のサイズで作れる?反物のサイズ(幅・長さ)と規格
- 【反物の長さと幅】基本となる標準サイズ「三丈物」
- 現代人に合わせた長さと幅!クイーンサイズ・キングサイズ
- 背が高い・腕が長い人の注意点
- 季節やシーンで使い分ける!反物の素材と種類
- 正絹(しょうけん):最高級の輝きと着心地
- ポリエステル:手軽さと耐久性が魅力
- 木綿・麻・ウール:普段着として愛される天然素材
- 反物から着物へ「お誂え」!仕立て方の種類と流れ
- 和服のオーダーメイド「お誂え」
- お誂えの種類:季節と用途で選ぶ
- 仕立ての流れ:お誂えのプロセス
- 知っておこう:仮絵羽(かりえば)とは?
- いくらかかる?反物の値段相場とお誂えの費用
- 反物自体の価格相場
- 忘れがちな仕立て代と裏地代
- 既製品やレンタルと何が違う?反物から仕立てるメリット・デメリット
- メリット:お誂えだけの醍醐味
- デメリット:知っておくべきハードル
- 大切な反物を守る!購入後のメンテナンスと保管方法
- 【着物・反物共通】基本の保管ルール
- 反物のまま保管している場合
- 憧れのお誂えも素敵!だからこそ、まずはレンタルで本物を体験するのもおすすめ
反物(たんもの)の基礎知識
着物の世界へ足を踏み入れると、耳にする機会が多い反物。まずは言葉の定義や数え方など、基本から紐解いていきましょう。
【反物は衣服の生地】反物の定義と着物との違い
反物とは、着物に仕立て上げられる前の、布の状態のことを指します。洋服で言えば、服になる前の生地にあたりますが、大きく異なるのはその形状です。
反物は、幅約36cm〜40cmほどの細長い布が、芯に巻かれたロール状(円状の筒)になっています。
すでに着られる形に縫製された着物に対し、反物はあくまで素材です。ここから着る人の体型に合わせて裁断し、縫い合わせることで、初めて衣服としての着物が完成します。つまり、反物を選ぶということは、オーダーメイドの入り口に立つということなのです。
名前の由来と数え方、種類
反物という名前は、反(たん)という長さを表す単位に由来しています。
大人の着物一着を作るために必要な生地の分量を一反(いったん)と数え、二着分なら二反(にたん)、三着分なら三反(さんたん)となります。
基本的に一反は着物一着分に該当しますが、例外もあります。例えば、振袖のように袖が長い着物を作るには通常よりも長い生地が必要です。また、アンサンブル(着物と羽織のセット)を作る場合は二反分が必要になることもあります。
また、反物とは基本的に着物の表地を指します。帯地(おびじ)や、着物の裏地となる胴裏(どううら)、八掛(はっかけ)といった短い布地は「裏物」として区別して扱います。
自分のサイズで作れる?反物のサイズ(幅・長さ)と規格
洋服の生地はメートルやセンチ単位で切り売りされるのが一般的ですが、反物は一着分の一反ずつで購入します。
長さや幅は決まった規格があり、体型に合わせて適した規格のものをチョイスします。自分の体型に合う着物を作るためには、この規格を理解しておくことが大事です。
【反物の長さと幅】基本となる標準サイズ「三丈物」
反物の最も基本的なサイズは、三丈物(さんじょうもの)と呼ばれる規格で、以下の尺が基本となります。
- 女性用:長さ12.5m、幅37cm(1尺巾)
- 男物用:長さ12.5m、幅40cm(1尺5分巾)
これは明治・大正時代から続く一般的な規格で、多くの着物はこのサイズで作られてきました。古くからある着物・反物の多くは、この三丈物である可能性が高いでしょう。
現代人に合わせた長さと幅!クイーンサイズ・キングサイズ
近年、日本人の平均身長が伸び手足も長くなっています。そこで登場したのが、現代の体格に合わせた大きめサイズの反物です。
- クイーンサイズ(女性用):幅約40cm(1尺5分)前後
- キングサイズ(男性用) :幅約42cm(1尺1寸)前後
さらに、より背の高い方やふくよかな方に向けて、幅の広い広幅(ひろはば)の反物も作られることが増えました。
背が高い・腕が長い人の注意点
体格が大きい方や高身長、腕の長い方は反物選びに注意が必要です。というのも、着物は反物の幅がそのまま身幅や袖の長さに直結する構造・仕立て方です。
反物のサイズは着物の仕上がりサイズをほぼ決める、と覚えておくといいでしょう。
- 反物の幅:袖の長さ(裄)と見幅に影響する
- 反物の長さ:身丈に影響する
例えば腕が長い方なら、幅の狭い反物を使って仕立てようとすると、どうしても袖が短くなってしまいます。ご自身の体格が大きめの方や、腕が長い方は、デザインよりも先に反物の幅を確認すると失敗しません。呉服店のスタッフや和裁士に、自分のサイズに合った反物か確認してもらうのも忘れずに。
季節やシーンで使い分ける!反物の素材と種類
反物と一口に言っても、使われている素材によって着心地や価格、着用シーンは大きく異なります。代表的な素材ごとの特徴を見ていきましょう。
正絹(しょうけん):最高級の輝きと着心地
正絹(しょうけん)とは、天然のシルク100%で織られた生地のことです。反物の中でも最も格が高く、振袖、留袖、訪問着といったフォーマルな着物の多くは正絹で作られています。
真珠のような美しい光沢があり、しっとりと肌に馴染む着心地なのが特長です。優れた通気性と保湿性があるのも魅力。静電気が起きにくく、着崩れしにくいという機能的なメリットもあります。
ですが、水に弱く、雨ジミができやすいため取り扱いには注意が必要です。また、保管状態が悪いと虫食いや変色のリスクがあるので、一緒に覚えておきましょう。
ポリエステル:手軽さと耐久性が魅力
ポリエステルは化学繊維ですが、近年では技術の進歩により一見すると正絹と見分けがつかないほど高品質なものも登場しています。
水や汗に強く、自宅の洗濯機で洗えるのが最大のメリットです。シワになりにくく、虫食いの心配もほとんどありません。価格も正絹に比べてリーズナブルです。そのため、普段着や仕事着、お稽古着、雨の日の外出に重宝します。
注意点としては、あくまでカジュアルな装いに向いたもののため、着用シーンは日常がベターです。通気性は正絹に劣るため、夏場は蒸れやすく感じる場合もあります。
木綿・麻・ウール:普段着として愛される天然素材
カジュアルな着物として親しまれているのが、木綿や麻、ウールといった素材です。温かみのある風合いで、浴衣や冬の単衣着物によく使われます。自宅で手入れができるものが多く、洋服感覚で楽しめます。
その中でも麻は上布(じょうふ)とも呼ばれ、夏着物の主役です。通気性が抜群で、汗をかいても肌に張り付かないシャリ感が魅力です。
反物から着物へ「お誂え」!仕立て方の種類と流れ

反物はそのままでは着られないため、プロの和裁士の手によって仕立ててはじめて着物の形になります。
和服のオーダーメイド「お誂え」
着物を仕立てることを「お誂え(おあつらえ)」と言います。注文通りに着物に縫い上げてもらう、和服のオーダーメイドです。
裏地や八掛(はっかけ)など、細部のデティールを好みに指定することが可能です。反物の規格で制限はありますが、自身のサイズにあった寸法に指定もできます。
お誂えの種類:季節と用途で選ぶ
お誂えをする際、どのように仕立てるかを見ていきましょう。まず、着物には大きく分けて袷(あわせ)と単衣(ひとえ)の2種類があります。
袷(あわせ)仕立て
裏地(胴裏と八掛)を付けて仕立てる方法です。
着用時期:10月から翌年5月頃までの、肌寒い季節に着用します。
単衣(ひとえ)仕立て
裏地を付けずに仕立てる方法です。
着用時期:6月と9月の季節の変わり目が基本ですが、近年では温暖化の影響で5月や10月に着ることも増えています。
仕立ての流れ:お誂えのプロセス
反物から着物ができるまでの一般的な工程を紹介します。
1.採寸:身長、バスト、ヒップ、裄丈など、身体のサイズを測ります。
2.湯のし・地入れ:反物に蒸気を当てて生地の目を整え、縮みを防ぐ前処理を行います。
3.裁断(紋入れ):必要な長さにカットします。家紋を入れる場合はこの段階で行います。
4.縫製:和裁士が手縫い、またはミシンで縫い上げます。高級な正絹などは、糸の調子を微調整でき、将来の仕立て直しもしやすい手縫いが推奨されます。
5.検品・納品:出来上がりを確認し、納品されます。
知っておこう:仮絵羽(かりえば)とは?
着物の展示会場や店舗などで、反物が着物の形に仮縫いされた状態で展示されているのを見たことはありませんか?これを「仮絵羽(かりえば)」と呼びます。
小紋や紬などの着物は、柄が繰り返しパターン状になっている場合が多いです。しかし、訪問着など着物全体で一枚の絵画のようになる「絵羽模様(えばもよう)」の着物は、柄が縫い目で途切れないように計算して染められています。
そのため、仕立て上がりの柄のつながりを確認できるよう、あらかじめ仮縫いした状態で販売されているのです。購入後は一度これをほどき、反物の状態に戻してから、お客様のサイズに合わせて本仕立てを行います。
いくらかかる?反物の値段相場とお誂えの費用
反物から作ると高そう、というイメージがあるかもしれません。実際、どのくらいの費用がかかるのか見ていきましょう。
反物自体の価格相場
反物の価格はかなり幅広く様々あり、素材や産地、作家によって大きく異なります。
- ポリエステル・木綿・浴衣地:1万円台〜5万円程度。手軽に始められる価格帯です。
- 一般的な正絹(小紋・色無地):5万円〜20万円程度。
- 高級正絹(訪問着・振袖・伝統工芸品):数十万円〜数百万円以上。人間国宝の作品や、緻密な刺繍、手描き友禅などは美術品のような価値が付きます。
忘れがちな仕立て代と裏地代
注意したいのは、着物を完成させるには反物代とは別に加工賃がかかるという点です。
- 仕立て代:海外ミシン仕立てなら2〜3万円程度、国内手縫い仕立てなら4〜8万円程度が相場です。
- 裏地代(袷の場合):胴裏(白い裏地)と八掛(裾まわりの色生地)が必要です。正絹の裏地を付ける場合、セットで1.5万円〜3万円程度かかります。
- 湯のし・ガード加工代:生地の整理や撥水加工などのオプション費用です。
つまり、反物の値札にプラスして、最低でも5万円〜10万円程度の加工費用を見積もっておく必要があります。5万円の反物を買ったけれど、仕立てたら総額15万円になったというのはよくある話ですので、予算組みの際はトータルコストを確認しましょう。
既製品やレンタルと何が違う?反物から仕立てるメリット・デメリット

あえて時間と費用をかけてお誂えをする意味とは何でしょうか。既製品やレンタルと比較した際のメリット・デメリットを整理します。
メリット:お誂えだけの醍醐味
ジャストサイズで着姿が美しい
自分の体型に合わせて仕立てるため、袖丈や裄、身幅が完璧にフィットします。余分なシワができにくく、着崩れもしにくいため、初心者でも綺麗に着こなせます。
世界に一着だけのオリジナル
反物だけでなく、裏地や八掛の色も自分で選べます。歩いた時にちらりと見える八掛の色にこだわるのは、着物通の楽しみの一つ。自分だけのコーディネートが完成します。
資産として受け継げる
良い反物は耐久性が高く、仕立て直しが可能です。親から子へ、寸法を直しながら受け継いでいけるのは、反物から仕立てた着物ならではの価値です。
デメリット:知っておくべきハードル
完成までに時間がかかる
購入してすぐには着られません。採寸から完成まで、通常1〜2ヶ月程度かかります。着用日が決まっている場合は、早めの準備が必須です。
完成イメージが湧きにくい
巻かれた状態の反物を見て、全身の着姿を想像するのは慣れが必要です。仕立て上がってみたら想像より派手だったということも起こり得ますので、事前の鏡合わせは入念にするのがおすすめです。
費用と管理の手間
前述の通り費用がかさむ上、購入後はクリーニングや虫干しなどのメンテナンスをすべて自己責任で行う必要があります。
大切な反物を守る!購入後のメンテナンスと保管方法

反物を手に入れた後、仕立てに出さずそのまま保管する場合もあるでしょう。仕立てた後でも同様ではありますが、着物の天敵は湿気・紫外線・虫の3つです。保管に必要な知識について紹介します。
【着物・反物共通】基本の保管ルール
- たとう紙に包んで保管
吸湿性のある和紙でできたたとう紙に包んで保管しましょう。 - 桐箪笥や防湿ケースへ
湿気は大敵です。プラスチックケースに入れる場合は、除湿剤をこまめに交換してください。 - 虫干しをする
年に1〜2回、晴天が続いた乾燥した日にタンスを開けたり、着物を吊るして風を通します。
反物のまま保管している場合
未仕立ての反物を長期間保管していると、巻き癖が強くついたり、芯に近い部分にカビが生えたりすることがあります。数年に一度は少しほどいて風を通し、巻き直してあげるのが理想的です。
また、いつか仕立てようと思っているうちに自身の体型が変わってしまうこともありますよね。良い反物は、寝かせておかずに着物として命を吹き込み、たくさん着てあげるのが一番です。
憧れのお誂えも素敵!だからこそ、まずはレンタルで本物を体験するのもおすすめ
イチから生地を選び自分のサイズに合わせ、裏地の色合わせに悩みながら仕立てるお誂えは、着物好きにとって最高の贅沢であり、憧れです。しかし、最初から高価な反物を購入し、仕立て代をかけるのはハードルが高いですよね。
そこでおすすめなのが、まずはレンタルで品質の高い着物に触れてみることです。京都きもの市場の宅配レンタルなら、正絹を中心とした上質な着物がフルセットで届きます。正絹のなめらかな着心地や美しい艶を体験し、自身のワードローブにどんな一着がふさわしいか見極めてみませんか? 着物ライフを、より賢く豊かに充実させましょう。

