「晒(さらし)」と聞いた時、皆さまはどのようなものを想像しますか。手拭(手ぬぐい)を連想する人、お祭りなどで晒を巻いている人を思い浮かべる人、腹帯や腹巻をイメージする人など、いらっしゃることでしょう。日本の一生地として発展してきた晒は、今でもさまざまな場面で利用されています。しかし、実際に「晒とはどのようなものですか?」と問われて、きちんとした回答ができる方は意外と少ないのではないでしょうか。そこで今回は、晒とはそもそもどのようなものなのか、どんな歴史があるのか、何に使われてきたものなのか、着物や着付けとどのような関りがあるのかについて詳しく解説していきます。
晒(さらし)とは何か?
そもそも晒とはどういうものなのかということをここで確認しておきましょう。
晒について
晒生地は、綿や麻などの天然繊維を用いて作られた生地(布地)から不純物を取り除き、白くしたり、人工的に漂白したりして作る布です。
吸水性が良く、速乾性にも優れ、柔らかな肌触りを特徴としています。
晒という言葉自体は、木綿や麻生地からノリや油などの不純物を取り除いて漂白する工程を指す場合と、漂白して出来上がった生地自体を指す場合があります。近年では、特に後者の意味で捉えられることが多くなっています。
ちなみに、「晒木綿(さらしもめん)」とは、「晒」の工程を経てできた木綿生地のことを言います。
「晒」という名前の由来
「晒」という名前は、「晒す」という言葉から来ています。「晒す」というのは「日に当てて干す」という意味の言葉でしたが、日に当てて干すことで天然素材の色素が抜け、白色に近くなるということから、「晒す」という言葉は「布を日に当てて干すことで白くすること」という意味に転じていきました。それがさらに「白くなった木綿や麻布そのもの」を意味する言葉と捉えられるようになった結果、白色に漂白した木綿や麻布を「晒(さらし)」と呼ぶようになったのです。
晒し方にも種類がある
晒しとは、天然の色素を抜いて白色に漂白するということですが、この晒し方にもいくつか方法があります。
中でも、日光と水を用いる「野晒し」、積雪と日光を用いる「雪晒し」、そして、天日干しによる自然な漂白を行う「晒し」が有名です。
晒の産地によって、晒し方は使い分けられています。晒の商品袋に「雪晒し」などと明記されているものもあるので、ぜひチェックしてみてください。
晒の加工工程
晒の加工工程は産地や晒の種類によって異なりますが、大まかには以下の通りです。
① 綿花から作られた平織り木綿生地のノリ抜きを行う
② 生地の精錬(不純物を取り除く工程)と漂白を行う
③ 洗浄と脱水を行う
④ 干して乾燥させる(晒す)
晒の加工工程を行う前の生地にはノリや油など不純物が多く含まれているのです。それらの不純物を取り除き、生地を白くする作業が「晒し加工」になります。
産地によって、各加工過程にこだわりや独自の技法が導入されているので、一概に上記の通りとは言えませんが、大まかにこのような工程を経て、柔らかな手触りの、真っ白い生地が作り出されているのです。
晒の種類
晒にはいくつか種類があり、分類方法もさまざまなものがあります。ここでは特に有名な種類のものについて解説しています。
和晒と洋晒
「和晒(わざらし)」、「洋晒(ようざらし)」と聞くと、国産か外国産ということなのかなと思われる方もいるかもしれませんが、どちらも国産のものになります。和晒と洋晒の大きな違いは、精錬方法にあります。和晒の精錬方法は昔ながらのやり方にのっとったもので、時間はかかるものの、自然の力を最大限に利用したものになります。
それに対して洋晒は機械を使って精錬を行うため、短時間で処理や加工ができるものになります。タイムパフォーマンスを考えれば後者の精錬方法が魅力的に見えるかもしれませんが、機械で精錬したものと自然の力を用いて精錬したものとでは仕上がり具合に大きな差が出てくるのです。
和晒は、大きな釜に生地を入れ、灰汁など最低限の薬品と天然水を用い、丸4日の時間をかけて丁寧に精錬していきます。この方法では生地や繊維にストレスがかかりにくいため、程良い毛羽立ちがある、吸水性や通気性に優れた柔らかな手触りの晒生地に仕上げることができます。毛羽立ちが適度にあり、生地に変な負荷がない分、生地そのものに空気が多く含まれているのが和晒の特徴です。生地に空気が多く含まれることで、吸水性や速乾性が高まることから、手拭生地としても大いに利用されています。
洋晒は、自動精錬機を用い、40分という非常に短い時間で精錬を行います。過酸化水素水や晒粉などの化学薬品を用いて色素を抜き、漂白するので、生地や繊維へのダメージもそれなりにあります。仕上がりは、毛羽立ちがほとんどなく固めの晒生地になります。毛羽立ちが少なく、また生地に用いている糸にテンションが加えられていることもあり、生地に空気の含みが少ないのも洋晒の特徴です。そのため、吸水性や速乾性は和晒よりも劣ります。洋晒は主にアパレル生地やハンカチ生地として利用されることが多いです。
身近なもの同士の比較として、和晒の手拭と洋晒のハンカチが分かりやすいのではないでしょうか。ハンカチはそこそこの吸水性はあっても意外と乾きが悪いのですが、手拭は水の吸水率が高く、また乾きも良いことに驚かされた経験がある方もいるのではないでしょうか。手拭は、洗面や手水の際に用いるだけではなく、入浴の時に顔や体を拭うためにも用いられてきたというものだけあって、やはり吸水性や速乾性には定評があります。
昨今の夏は暑さが異常に厳しく、汗を多くかく場面もあります。そんな時にはハンカチやタオルではなく、晒生地の手拭を用いてみるのもおすすめですよ。
蛍光と無蛍光

晒商品の袋に「無蛍光」と書かれているものがありますが、これを見て疑問を持ったことがあるという方もいるのではないでしょうか。蛍光か無蛍光かは、晒を白くする際に、蛍光増白剤と呼ばれる薬品を用いているか否かということを示しています。蛍光増白剤が用いられた晒は真っ白であり、紫外線ライトを当てると発光します。対して、蛍光増白剤が用いられていない無蛍光の晒は、多少生なりが残り、真っ白というよりはアイボリーに近い色合いと自然な素朴さが感じられます。
蛍光増白剤は刺激の強い薬剤になるため、蛍光晒を赤ちゃんのグッズ、敏感肌の方の肌着、料理などで用いることは避けなくてはいけません。様々な用途で晒を使っていきたいというのであれば、安心安全な無蛍光のものがおすすめです。
糸の太さと糸の量で種類が変わる
晒は、目の粗さや細かさによって4つの種類に分類することができます。もっとも目が粗いとされるものは「文」や「総理」と呼ばれ、20番手の太い糸が用いられています。糸量が少ないため目は粗くなっているのが特徴です。
「文」に次いで目が粗いものは「特文」と呼ばれています。
「特文」に次いで目が粗いものは「岡」と呼ばれ、30番手のやや太い糸が用いられています。目の粗い生地というよりはどちらかというと目が細かいもの寄りの生地として用いられています。
「特岡」は「岡」に次いで目が粗く、かなり目が細かいものとして知られています。使われている糸が細く、糸の量は多いため、生地触りは滑らかなのが特徴です。
以上が晒の目の粗さ、細かさの基準になる分類ですが、「文」よりも目が粗いもの、「特岡」よりも目が細かいものももちろん存在します。例えば、ガーゼ生地などは「文」よりも目が粗い生地が用いられています。
有名な晒とその産地
ここでは、晒の有名な産地について解説していきます。
奈良晒(ならさらし)
奈良晒は、木綿ではなく上質な麻織物の晒になります。その起源は鎌倉時代にまで遡ることができると言われており、武士の裃に用いられるなど武士文化と共に発展してきました。江戸時代には徳川幕府の御用品に指定されるなど、高級品として上流中流階級の人々を始め、武家の人々に愛用されました。しかし、武家文化の終焉と徳川幕府の衰退と共に奈良晒も廃れていきましたが、保存会などの活動により製造方法が継承されてきました。1979年には無形文化財に指定され、現在奈良晒は工芸品として大切に継承されているのです。
知多晒(ちたさらし)
愛知県の知多半島で生産される知多木綿から晒加工を経て出来上がったものが知多晒と呼ばれるものです。奈良晒が麻素材であるのに対し、知多晒は木綿素材であるというのが大きな特徴となっています。元々知多木綿の生産が盛んだったところで晒加工が行われるようになり、江戸時代には生地の白さが素晴らしいと人気を博しました。明治時代以降は木綿生産の発展と共に知多晒が広い層で用いられるようになり、幅広い用途で人々の生活を支えてきました。やや粗目の生地素材は吸水性、通気性、速乾性に優れており、さまざまな場面で活用できるということで、今も重宝されています。
晒が使われる場面
晒は使い勝手が良い生地としてさまざまな場面で活用されてきました。
定番の手拭

晒生地を用いたものとして特に有名なのが手拭です。手拭は元々麻素材を用いていたのですが、原料が高価であるということもあり、江戸時代の中期以降からもっぱら木綿素材の晒が用いられるようになりました。吸水性が良く、速乾性もある手拭は、手を拭うためだけではなく、顔や体を拭うものとして重宝されたのです。ちなみに、手拭は長らく無地の白い晒を用いるのが一般的だったのですが、江戸中期頃から染色したものも多く出回るようになります。染め方や意匠を競うなどの遊びも生まれたそうです。
現在でも素敵な色柄の手拭はありますが、実用的な手拭としてではなく、手拭用の額に入れて、アートとして楽しむという人もいます。素敵な色柄の手拭をただ手を拭うためだけに使うのはもったいないと思われるかもしれませんが、実用性のある布でもあるので、ハンカチ代わりに使ってみるのもおすすめですよ。
100%天然素材という強みを活かした使われ方
晒生地の素材は、木綿や麻など100%自然のものになります。そのため、敏感肌の人や生まれたての赤ちゃんの肌、傷口に用いるにも抵抗がないということで、医療現場やベビー用品に好んで用いられています。簡易の包帯として、傷口に当てるガーゼの一種として、布マスクとして、妊婦さんの腹帯として、赤ちゃんの布おむつとして、赤ちゃんのスタイ(よだれかけ)として、赤ちゃんの肌着として、抱っこ紐の素材としてなど多用されているのです。
台所用品の必需品
晒は吸水性と速乾性に優れるということから、台所の台布巾として長く愛用されてきました。今も刺子ふきんとして普段使いされている方も多いのではないでしょうか。また、茶道道具の茶巾にも晒が用いられるように、蒸料理などを作る際に調理道具として晒が使われることもあります。料理で晒を用いる際には、「食品用」と明記されているものがおすすめです。食品用の晒にもいくつかサイズがあるので、用途に応じて使い分けると良いでしょう。
着物の素材として

高級晒は浴衣の素材として用いられることがあります。それ以外にも肌着に用いられていることも多いです。他にも、例えば身幅が足りない着物を着る際の足し布として晒を用いたり、和装ブラジャーの代わりに晒を巻いたり、補正代わりに晒を用いるといったこともあります。一つ手元にあると大変重宝するので、着物をよく着られるという方は晒を用意しておくことをおすすめします。
具体的な晒の使い方は以下の通りです。
・補正小物として、胸や腰の凹凸をならして寸胴にするために晒を巻く
・補正小物として、晒を厚めに折り重ねて補正パッドにする
・着付け小物として、帯枕に晒を巻いておくと帯枕を付けた時に緩みにくくなる
・汗取り小物として、汗をかきやすいお腹や胸に晒を巻く
着付けと晒

晒は着付けの便利アイテムとして、多くの着付け師が常備しているマストアイテムでもあるのです。
例えば、細く長く切ることで腰紐などの紐の代用として用いることができます。もし一般的な長さの紐では長さが足りないという時にも晒で足し紐を作れば、紐が足りなくて結べないという問題が解決できるのです。
また、補正をきちんと整えるために、タオルなどの補正の上から晒を巻き、補正崩れの防止へ役立てることもできます。
ちょっとした時に役立つアイテムとして晒は着付け師の必需品になっているわけですが、自分で着物を着るという方でちょっと着付けの工夫が欲しいかもという時に晒は大変おすすめです。
晒はどこで買える?
晒はドラッグストアーや薬局などで売られていることが多いです。巾32cm×1反(約10m)巻きのものを買っておくと、特に着物を着る際に大変便利です。ただ、最近は加工しやすいようにということで短いタイプのもの、細かくカットされているタイプのものが売られていることもあるので、購入する前に長さがどれぐらいあるのか、自分のニーズに合っているものなのか、サイズの確認をするようにすると安心です。
生地の粗さは、ニーズによって異なるため一概にこの粗さが良いということはできません。もし、着付け用の晒を買いたいということであれば、「岡」や「特岡」あたりがおすすめです。生地密度が高い分、身体へのフィット感は良く、またパリッと着こなせるので美しく着物を着るのにも役立ってくれますよ。
まとめ
晒について解説してきましたがいかがでしたでしょうか。
元々は生地を白く漂白する加工工程を「晒し」と言っていたというのを初めて知った方もいらっしゃったのではないでしょうか。
今でこそ、白く漂白された木綿や麻の平織物を「晒」と呼んでいるわけですが、そこには長い歴史があったことがうかがえますね。
晒は、機械を用いて漂白されたものもあれば、昔ながらの製法でじっくり時間を掛けて漂白されたものもあります。晒を買って、商品袋から晒を取り出した際に、どこか薬品臭さが鼻につくという時には、機械で加工された晒かもと疑ってみても良いかもしれません。商品袋にも明記されているはずなので、確認してみてはいかがでしょうか。特に機械で漂白された晒に関しては、使用する前に一度湯通しするか水洗いすることをおすすめします。布に残った薬品はできるだけ除去してから使い始めると良いでしょう。
