「袂を分かつ(たもとをわかつ)」とはどんな意味?どんな時に使う言葉?他の着物に関する慣用句もご紹介

「袂を分かつ」という、別れることを意味する言葉がありますが、どういう背景や由来を持つ言葉なのか気になったことはありませんか。今回は、「袂を分かつ」という言葉の意味、使い方はもちろん、どうやってこの言葉が生まれたのか、その背景についても解説していきます。また、着物と縁のある他の慣用句についてもご紹介していくので、ぜひ参考にしてみて下さい。

目次
  1. 「袂を分かつ」という言葉
  2. 「袂を分かつ」という言葉の意味
  3. 「袂を分かつ」という表現を使うシチュエーション
  4. 文学の中の「袂を分かつ」という表現
  5. 「袂を分かつ」という言葉のルーツ
  6. 女性の着物の袖はなぜ既婚と未婚で違いがある?
  7. 着物「袂」と「振り」
  8. 未婚女性にとっての和服の袖の役割
  9. 袖や袂に関する慣用句
  10. まとめ

「袂を分かつ」という言葉

早速ですが、「袂を分かつ」という言葉にはどんな意味があるのか、どんな時に使うのかについてみていきましょう。

「袂を分かつ」という言葉の意味

「袂を分かつ」という言葉は慣用句として捉えられており、主に別れを意味する際に用いられる表現で、読み方は、「たもとをわかつ」です。

具体的には、「何かが原因で、それまで一緒に行動していた人と別れたり、それまで続いていた親密な関係を絶ったりする」(出典:三省堂『故事ことわざ慣用句辞典』)という意味で、「絶縁」や「絶交」、「決別」などと同義だと考えられています。

「袂を分かつ」という表現を使うシチュエーション

本来、「袂を分かつ」という言葉は、気軽な別れを意味するものではなく、確固たる関係の断絶を意味する時に用いるものです。そのため、日常生活で頻繁に使う表現というよりは、ここぞという時に用いる表現であり、人によっては一生涯用いない方もいることでしょう。

では、具体的にどんな時に「袂を分かつ」という言葉を用いるのでしょうか。いくつか例を挙げてみます。

・ある事件をきっかけに、大親友と袂を分かつ結果となってしまい、とても後悔している。

・営業方針で意見が対立し、共同経営者と袂を分かった。

しかし、近年は「袂を分かつ」というのは単に「別れ」を意味する表現といったニュアンスで捉えられることも出てきているようです。そのため、従来の「決別」や「絶交」といった強い言葉としてだけではなく、「違う道を進むようになるという意味での別れ」という意味合いでも「袂を分かつ」という言葉は使われるようになっています。

具体例としては、

・違う道を進むことになった友人と円満に袂を分かつことになった。

など、柔らかいニュアンスで「袂を分かつ」という言葉を用いるのであれば、その前に「円満」などポジティブなワードを置くことで、本来の強い意味での「袂を分かつ」という言葉が緩和され、穏やかなイメージを持つことができるのです。ただし、単に「別れ」を意味するという意味での「袂を分かつ」という言葉はまだまだ広くは認識されていません。そのため、ちょっとした別れを意味する際に「袂を分かった」などと表現してしまうと大きな誤解を生む可能性もでてくるということだけは覚えておいた方が良いでしょう。

文学の中の「袂を分かつ」という表現

「袂を分かつ」という表現を文学作品の中で目にしたことがあるという方も多いことでしょう。文学作品の中でも、特に森鴎外(1862-1922)は「袂を分かつ」という表現を何度か用いています。

例えば、『うたかたの記』(1890)の中では、「巨勢が『ホテル』の前にて、二人は袂を分ちぬ」と、『舞姫』(1890)の中では、「袂を分かつはただ一瞬の苦難なりと思いしは迷い」と、それぞれ「袂を分かつ」という言葉を使用しているのです。ちなみに、文学界で「袂を分かつ」という表現の初出は『うたかたの記』とされています。

「袂を分かつ」という言葉のルーツ

「袂を分かつ」という言葉は、ミセスの第一礼装である留袖とも関係があります。

かつて、女性が結婚し、実家を離れて嫁入りする時には、着物の袂を切って仕立て直す慣習がありました。これは、振袖が未婚女性の第一礼装なのに対し、着物の袂を切って留めた留袖が既婚女性の第一礼装となっていることにも繋がる慣習ですが、この慣習から「袂を分かつ」という表現が生まれたと考えられています。

「嫁に行ったら実家に帰るな」というかつての婚姻の考え方は、実家という親元を離れ、夫となる人の家へと嫁入りすることは、事実上親との別れ(絶縁)であると捉えられていたこともあり、「袂を分かつ」という言葉が単なる別れを意味する言葉ではなく、絶交や絶縁などの強い意味を持つようになったというわけなのです。

また、お隣中国にも「袂を分かつ(分袂)」という表現があり、同じく「別れ」や「決別」を意味する言葉として使われているそうです。古文の中で「袂」は「袖」の意味として用いられており、日本語における「袂を分かつ」という言葉の由来とも共通する文化的背景があるというのは非常に興味深いところなのではないでしょうか。

女性の着物の袖はなぜ既婚と未婚で違いがある?

ここまで「袂を分かつ」という言葉について解説してきましたが、そもそもなぜ嫁入りする時に着物の袂を切って振りをなくし、袖を短く留める必要があったのでしょうか。

実は、未婚女性の着物の袖及び振りには重要な役目がありました。

着物「袂」と「振り」

ここで今一度、着物の「袂」と「振り」について確認しておきます。

着物の「袂」とは、袖の下側、袋状になっている部分を言います。対して、着物の「振り」とは、袖付けから下の開いている部分を言います。どちらも同じような部分を指しているので分かりにくいかもしれませんが、厳密には別の部位ということになります。

ただし、振りをなくして袖を短く留める際には、袂部分を切断しなければならないため、「振りを切る」と「袂を切る」は同義であると考える方もいらっしゃいます。

未婚女性にとっての和服の袖の役割

未婚女性は、男性からのアプローチがあった際に、言葉ではっきり返事をするのは、はしたないと考えられていたそうです。そこで活用されたのが、和服の袖でした。未婚女性だけが着ることのできる振袖の袖は、少し動かしただけでも優美な振りを演出してくれるため、男性のアプローチへの返答合図にもぴったりだったようです。

そして、好意を持っている、「イエス」の返事をする時には袖を左右に振り、好意を持っていない、「ノー」の返事をする時には袖を上下に振って、自分の気持ちを伝えたそうです。

今でも、「フッた」、「フラれた」という言葉にその名残を見て取ることができるというのは、なかなか感慨深いものがありますね。

こうした背景から、既婚女性は、もう男性に袖を振る必要性がないということで、振りを切って袖を短く留めた着物だけを着るようになったということなのです。

袖や袂に関する慣用句

最後に、「袖」や「袂」を使った別の慣用句をご紹介します。

・「袖触り合うも多生の縁(袖すり合うも他生の縁)」
 ふとしたことがきっかけで作られた人間関係というのは大切にするべきということ。

・「袖にすがる」/「袂にすがる」
哀願し、助けを求めること。

・「袖にする」
今までの親密な関係を断つ、そして冷淡な扱いをすること。

・「袖の下」
 他人に気付かれないように袖の下からそっと渡すというところから、賄賂を意味する。

・「袖を絞る」
涙で濡れた袖を絞るという意味で、ひどく悲しんで、泣くこと。

・「袖を連ねる」/「袂を連ねる」
利害や得失を同じくする仲間が行動や進退を共にすること。

・「袖を通す」
まだ着ていない着物や洋服を初めて着ること。

・「袖を引く」
 袖を引いて相手の注意を促す意で、他人に気付かれないように、そっと注意を与えること。

まとめ

「袂を分かつ」という言葉について、解説してきましたが、いかがでしたでしょうか。

実は、着物や着物文化から生まれた言葉や表現というのは意外と多くあるのですが、中には気が付かずに使っているものもあるかもしれません。

「袂を分かつ」という慣用表現は、文語表現として用いるものであって、あまり口語表現の中には登場しない印象があります。逆に言えば、口語表現の中で「袂を分かつ」という言葉が出てきたのであれば、それは確固たる決断があった重い離別であったことがうかがえます。

それだけ「袂を分かつ」という言葉には重いものがありますが、かつて嫁入りする女性が実家や両親と断腸の思いで縁を切り、関係を断たざるを得なかったということから生まれた言葉として捉えるのであれば、決して軽い言葉ではないことは明らかです。

今後、何かで「袂を分かつ」という表現を見た時には、どんな別れだったのかというところに思いを馳せてみてはいかがでしょうか。

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