和装の世界には「紋付(もんつき)」と呼ばれる着物が存在します。「紋付」、すなわち「紋が付いている着物」ということで、結婚式で新郎が着る礼装の着物や羽織がそれに該当します。しかし、紋付の着物が何かということは分かっても、詳しい紋付着物のルールについては知らないという方も多いのではないでしょうか。
今回は、紋付の着物とは一体どういう着物なのかということに焦点を当て、解説していきます。後半、黒紋付の着物についても触れているので、ぜひ参考にしてみてくださいね。
紋付とは何か?

ここでは紋付についての基本情報をまとめています。
紋付の定義
「紋付(もんつき)」とは、家紋(定紋)などの紋所(もんどころ)が付いた着物や羽織のことを指して用いる言葉です。
最高位の五つ紋が入ったものを始め、三つ紋、一つ紋が入れられた格式ある礼装用の和服を総称して紋付着物と呼ぶこともあります。
もし、ドレスコードに「紋付」という表記があったら、紋(家紋)が入った礼装用の着物で出掛ける必要があるということになります。
紋付と紋服
紋付の着物や羽織のことを紋服(もんぷく)と呼ぶことがあります。これは主に男性の紋付着物・紋付羽織に用いるもので、正式には「紋付羽織袴」を意味する言葉です。それゆえ、女性の着物で紋の入ったものを「紋服」と呼ぶことはまずありません。
紋付の種類
紋付の着物は、五つ紋付、三つ紋付、一つ紋付に分けることができます。
五つ紋は背中と両袖、両胸に紋を入れ、三つ紋は背中と両袖に、一つ紋は背中のみに紋を入れることが定められています。紋の数が多ければ多いほど格が高いというのが和服のルールです。例えば、結婚式で新郎が着る黒紋付羽織袴、新郎新婦の母親らが着る黒留袖は五つ紋が入っています。どちらも、五つ紋が入った正礼装の着物として装います。
三つ紋付の着物は五つ紋付の着物の次に格が高い着物として、式典やお茶会などで着られることがあります。
一つ紋付の着物は、紋が付いていない訪問着よりもやや格が高い着物です。かつては訪問着などに一つ紋を入れて格式高い場所に装うことも多かったのですが、紋が入っていることで逆に少しカジュアルな場には相応しくない装いになるということもあり、一つ紋を入れることはほとんどなくなりました。しかし、礼装用の着物として用いるために、無地や江戸小紋に一つ紋を入れて、着物の格を上げられる方もいらっしゃいます。
紋の意味と役割を知る
ここでは、紋付に用いられる「紋」について解説しています。
紋(家紋)とは?

紋、すなわち家紋は家の由緒や経歴などを象徴する文様で、定紋(じょうもん)や紋所などとも言います。
家紋の起源は、保元・平治の頃(1156年頃)に旗や幕に使われたのが始まりだと言われることもありますが、平安時代の公家が牛車で宮中に出入りする際に、その車を識別するための標識のように用いたのが始まりとされることが多いです。
貴族に始まり武士も家紋を用いるようになり、江戸時代の頃には町人も家紋を用いるようになるなど、時代を経るごとに家紋は階級を超えて人々に浸透していきました。それに伴い、家紋の数や図案もどんどん増え、現在はなんと8000種以上の家紋があると言われています。
紋(家紋)はなぜ必要?
着物にはなぜ紋を入れるのか疑問に思われたことはありませんか。礼装用の着物に紋を入れる理由はいくつかありますが、格式を表すため、「家」を表すため、またお守りや魔除けの意味を込めて入れると考えられています。
よく、紋が入った着物は格式が高いと言われることがありますが、まさにその通りで、紋を入れることで着物の格を高めているというところがあります。礼装用の着物のみならず、例えば普段着として着られる色無地の着物に一つ紋を入れて紋付の着物とすると、普段着から略礼装の着物へと格上げになるのです。このように紋を入れることで着物の格式が高くなるということは覚えておくと良いでしょう。
ちなみに、すべての着物に紋を入れられるというわけではありません。小紋や普段着の紬などカジュアルな着物には紋を入れることはできず、基本的には礼装用の着物である黒留袖、色留袖、振袖、訪問着、付け下げ、色無地、江戸小紋、不祝儀着(喪服)などに入れます。
また、家紋は「家の紋」を表すということなので、紋を着物に入れることで家の代表ないしは、その家の一員であることを誇示しているとも言えるのです。紋付の着物、特に五つ紋が入った最礼装の着物を着る格式高い場というのは日本の伝統的な行事と深い繋がりがあるものも多いです。そういったものでは古くから家を背負って厳粛な場にのぞむ精神が求められてきました。今現在でもその考え方が服装に色濃く残り、伝統を重んじて紋が入った着物を礼装として用いていると考えられています。
ところで、皆さまは「背守り」というものをご存知でしょうか?大人の着物は背中のところに背縫いという縫い目(継ぎ目)が見られますが、幼児の着物(一つ身)には縫い目がありません。背中に縫い目がないというのは、背中に眼がないのと同じで悪い気や物の怪の類が背中から侵入することを防げないと昔の人々は考えていました。そこで、背中に「目(縫い目)」を付けて、悪いものから子供を守るために、「背守り」と呼ばれる刺繍を施すようになりました。
刺繍の図案はさまざまで、麻の葉、矢などがありました。背守りが施された場所はちょうど大人の着物の背紋のあたりということもあり、紋にも魔除け効果が期待されて付けられていたようです。現在でも、紋にはお守りや厄除け、魔除けの意味が込められていると考えられています。
紋(家紋)を入れる場所と意味
紋を着物に入れる場合、どこに入れても良いというものではなく、決められた定位置にのみ入れることができます。もっとも格が高い五つ紋の場合は、背中心の衿下に背紋、両側の後ろ袖に袖紋、両側の胸に抱紋の五つを入れ、三つ紋の場合は背紋と袖紋、一つ紋の場合は背紋だけを入れます。ちなみに、衣紋掛けに着物を掛けた時、背紋と袖紋は横一直線上に現れます。
背紋、袖紋、抱紋にはそれぞれ守護や願いが込められていると言われています。背紋はご先祖様の守護が込められているとされ、悪い気から背後を守るだけではなく、後ろから見守っているというお守り的意味を持っているのです。抱紋は両親の想いが込められた紋とされ、その想いが感じられやすい心の近くに配されたと考えられています。袖紋は兄弟姉妹、親戚との繋がり、縁、想いなどが込められた紋とされています。
紋の大きさは男女で異なる

着物に入れる紋の大きさは男女で異なり、一般的に男性の着物に入れる紋の方が女性の着物に入れる紋よりも大きくなっています。男性用の紋は約3.8cm、女性用の紋は約1.9cmのものが基準となっており、正礼装の五つ紋にはこの大きさのものを用いるのが一般的です。
紋の技法と紋の格
紋と一言で言っても、着物に入れる紋の技法にも種類があり、その種類によって格も異なってきます。
染め技法上でもっとも格が高い紋は、染め抜きの日向紋(陽紋/表紋)で、紋の形を白く染め抜いたものになります。もっとも正式で格式高いこの紋は、五つ紋付礼装の紋の染め技法として用いられます。留袖や男性の黒紋付羽織袴の紋はこの染め抜き日向紋で入れられているのです。
日向紋よりも格が下がった紋は陰紋や裏紋などと呼ばれ、輪郭線のみで表現されます。略式の紋として用いられ、五つ紋付などの正礼装では使用することができません。訪問着や付け下げ、色無地などに紋を付ける場合はこの技法を用います。
黒紋付という着物について

黒紋付は黒一色の無地の着物で、紋が入った着物を言います。男女どちらにとっても第一礼装の着物になります。慶弔両方で用いることができるものなので、一つ持っていると大変重宝します。
男性の黒紋付
男性の着物で黒紋付と言えば、第一礼装である黒紋付羽織袴のことを意味します。黒紋付羽織袴というのは、黒の羽二重に染め抜き日向紋の五つ紋が入った着物と羽織、それに仙台平の縞の袴を合わせた出で立ちです。慶事の際は、白衿、白い羽織紐、白い鼻緒と小物を白で統一して、弔事の際は、白衿または鼠色の衿、黒い羽織紐、黒い鼻緒と小物を黒やグレーのダークカラーで統一して装います。
女性の黒紋付
女性の着物の黒紋付とは、五つ紋が入った黒一色の着物のことを指します。文様が一切ない黒一色の着物ということもあり、ブラックフォーマルという位置付けで装われることが多いです。
慶事弔事両方で用いることができ、慶事の際は豪華な袋帯と合わせて華やかに装い、弔事の際は黒色の名古屋帯と合わせ、小物も黒や白で統一して慎ましやかに装いをまとめます。不祝儀として黒紋付を着る場合は、悲しみが重ならないよう一重で締められる名古屋帯が選ばれることが多いのですが、地域差もあるので事前に確認しておくと安心でしょう。
また、黒紋付と袴を合わせて卒業式などの式典に臨むこともあります。かの宝塚の卒業式でも黒紋付に緑色の袴という組み合わせをみることができますね。
黒紋付は喪服?
黒紋付は礼装用着物の中では珍しく、柄も無く、色も地味という独特な着物です。五つ紋が入っているので格だけは高い着物と認識されていますが、黒一色でまったく柄が無いというのがブラックフォーマルに直結したのでしょう、「黒紋付=喪服」というイメージが定着してしまっている着物でもあるのです。確かに黒い名古屋帯や黒色の小物と合わせれば弔事の装いになりますが、これはあくまで黒紋付の一着方であって、これがすべてではないのです
。
そもそも、明治時代に西欧文化が流入し、ブラックフォーマルという考え方が輸入されるまでは、日本の伝統的な喪服は白色でした。そのため、明治時代に皇室によって弔事の服装はブラックフォーマルにすると規定されても、「黒紋付が喪服である」という考え方にはならなかったのです。今現在も黒紋付は喪服ではありません。不祝儀用の着物としても装うことができる着物ではありますが、喪服に限定した着物ではないということはぜひ覚えておいてください。
黒紋付と留袖の違い
黒紋付は慶事でも着られる着物ではありますが、似たような着物に留袖というものもありますね。黒紋付を慶事できる場合、留袖とどのような違いがあるのでしょうか。
そもそも、黒紋付と留袖では見た目の豪華さが異なります。同じ黒地で五つ紋付であっても、留袖に見られるような豪華な江戸妻模様は黒紋付には見られません。また、黒留袖はミセスの第一礼装ですが、黒紋付は既婚未婚関係なく装える礼装着物という違いがあります。さらに、黒留袖は比翼仕立てにする必要がありますが、黒紋付は比翼仕立てにすることはありません。
黒留袖と黒紋付着物は似ている着物ではあるのですが、見た目でも即座に判断できる違いがあるので、どちらがどの着物か迷われることはまずないと言えるでしょう。
黒紋付はレンタルできる?
男女共に黒紋付はレンタルすることができますが、特に女性の黒紋付に関してはレンタルできるところが少なくなっているので気を付けた方が良いでしょう。
黒紋付は不祝儀用の着物として借りられることが多い着物なのですが、わざわざお葬式に和服で臨むという方があまりいないため、黒紋付のレンタルも訪問着などに比べると数がかなり少ないようです。
葬儀の準備やら何やらで比較的忙しく過ごす親族は、正直黒留袖を着付けてもらう暇さえ見出すのが厳しいこともあります。自分でささっと着付けして着ることができない限り、お葬式当日わざわざ黒紋付を喪服として着ようとは思わないかもしれませんね。
また、昔からある「喪服の貸し借りはご法度」という考え方も黒紋付のレンタルの少なさに少なからず影響を及ぼしているかもしれません。喪服の貸し借りは悲しみや不幸の貸し借りにも繋がるとするこの考え方から、縁起を重んじる日本の文化の中で喪服のレンタルはタブーと捉えている人は相当数いるのです。
もし、黒紋付をレンタルする際には、素材や家紋、レンタル期間をよく確認してからレンタルするようにしましょう。化繊素材の黒紋付はお得に安く借りることができますが、正絹のものよりも見劣りし、品格も劣るということは覚えておくと良いかもしれません。
まとめ
紋付の着物について解説してきましたが、いかがでしたでしょうか。
紋付とは、紋が入った礼装用の着物のことを言い、格式高い場所に装うのに相応しいものです。
現在は、家紋そのものが廃れてきていることもあり、家紋の意味や重要性よりも、その見た目のカッコ良さなど、装飾的なニュアンスが重視される傾向にある中、今一度家紋の意味、紋付の役割を理解することで、和服への理解も深まったのではないでしょうか。
ちなみに、家紋が分からないという場合には、誰でも使用することができる通紋を入れることができます。通紋に用いる紋は、五三の桐や蔦(つた)が有名です。いずれも大変縁起の良い紋として知られています。
また、女性の着物の中で、不祝儀という位置付けにされがちな黒紋付についても解説してきましたが、実は慶事でも装うことができるという事実に驚かれた方も少なからずいたことでしょう。機会があったらぜひ黒紋付に豪華な袋帯を合わせて、格式高いおめでたい席にも装ってみてくださいね。
